セクハラは、パワハラとは異なり、職場における性的な言動そのものが問題となります。
特に酒席や閉鎖的な空間ではトラブルが起こりやすく、「相手から嫌だと言われなかったから大丈夫」という考え方も通用しません。
また、セクハラが発生した際に会社として適切な処分を行うためには、問題が起きてから対応するだけでなく、経営者が日頃から「セクハラを許さない」という姿勢を社員に示しておくことも求められます。
今回は、経営者が知っておきたいセクハラに対する考え方や予防策、発生した場合の対応方法について、地方維新塾第3回セミナーで解説した内容をもとに、地方維新塾の主宰弁護士・西村幸太郎が整理してお伝えします。
セクハラは「基本的に全部アウト」と考える

セクハラについては、パワハラよりもシンプルに考えてください。職場における性的な言動は、基本的に「全部アウト」と考えておくくらいでよいと思います。
パワハラの場合、業務命令や指導には業務上の必要性があるため、「必要性」と「相当性」のバランスを見ながら判断する必要があります。
一方、通常の職場で性的な言動が仕事に必要になる場面は、ほとんどありません。
そのため、「この程度なら許されるだろう」と境界線を探すのではなく、そもそも職場に性的な言動を持ち込まないことを基本にする必要があります。
職場における性的な言動に業務上の必要性はない
セクハラは、性的な発言だけでなく、身体に触れるような行為も問題になります。
ここで考えてほしいのは、「その発言や行為は、仕事をするうえで本当に必要なのか」ということです。
通常の業務であれば、性的な話をしたり、相手の身体に触れたりする必要はありません。セミナーの際にも「言っちゃダメだし、触っちゃダメ」とお伝えしました。
パワハラのように「必要な指導だったのか」と境界線を細かく探るよりも、性的な言動は職場に必要ないという前提で行動した方が、会社としても判断しやすくなります。
酒席や閉鎖的な空間では特に注意する

セクハラで特に注意していただきたいのが、会社の懇親会などの酒席です。
実際に私が相談を受けるケースでも、「これはまずい」と感じるものは酒席で起きた事案が多くあります。
お酒を飲むこと自体が問題なのではありませんが、会社として懇親会でのルールや禁止事項を決めておくことも考えた方がよいでしょう。
また、二人きりになるような閉鎖的な空間をできるだけ作らないことも予防策になります。
閉鎖的な空間では、後からセクハラを指摘された際に説明が難しくなることもあるため、自らそうした状況を作らないよう意識してください。
「自分は大丈夫」と考えるのではなく、問題が起こりやすい状況そのものを作らない。経営者や管理職には、こうした予防の視点も持っておいていただきたいと思います。
「被害申告がない=セクハラではない」は通用しない
セクハラでは、「相手から嫌だと言われなかった」「被害申告がなかった」という主張が出てくることがあります。
しかし、職場には上司と部下といった力関係があります。相手がその場で拒否したり、会社に被害を訴えたりしなかったからといって、セクハラではなかったとは判断できません。
この点について、最高裁が明確な判断を示したのが、いわゆる大阪海遊館事件です。
【事例】大阪海遊館事件で争われた「セクハラ神話」

大阪海遊館事件では、男性職員2名が女性職員に性的な発言を繰り返し、会社から出勤停止や降格などの処分を受けました。
男性職員側は、セクハラの有無そのものではなく、処分が重すぎるとして争いました。その理由の一つが、「被害者から被害申告がなかった」というものです。
しかし、最高裁はこの主張を認めませんでした。上司と部下という関係などを考えれば、被害者が必ずしも明確に拒否できるとは限らないからです。
つまり、「何も言われなかった=同意していた」ではありません。
これは、私が「セクハラ神話」と呼んでいる考え方の一つです。本人から拒否や被害申告がなかったことを理由に、「問題なかったはずだ」と考えないようにしてください。
経営者は「セクハラを許さない」という姿勢を社員に示しておく
大阪海遊館事件から会社側が学ぶべき点は、問題が起きる前から「セクハラは許さない」と明確に示しておくことです。
この会社では、セクハラ防止のための研修や禁止事項の周知などを事前に行っていました。それでも性的な言動が繰り返されたことが、処分の重さを判断する際の事情にもなっています。
「セクハラがダメなのは当たり前だから、わざわざ言う必要はない」ではなく、経営者や会社として明確にメッセージを出し、研修や社内ルールにも落とし込んでおく。
セクハラが発生したときに会社として毅然と対応するためにも、平時から会社の方針を社員に伝えておくことが求められます。
セクハラを起こしたのが役員か従業員かで対応は異なる

セクハラが発生した場合、会社が取れる対応は、行為者が従業員なのか役員なのかによって異なります。
従業員は会社と雇用契約を結んでいるのに対し、取締役などの役員は会社との委任関係にあります。そのため、同じセクハラであっても、処分の根拠や手続きは同じではありません。
従業員には就業規則に基づく懲戒処分を検討する
従業員がセクハラを起こした場合には、事実関係を調査したうえで、就業規則に基づく懲戒処分を検討します。
処分としては、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などが考えられます。ただし、セクハラがあったからといって、どのような処分でも認められるわけではありません。
行為の内容や程度などを踏まえ、就業規則に沿って処分を判断することになります。
役員には解任・辞任勧告など別の対応が必要になる
一方、取締役や代表取締役などの役員がセクハラを起こした場合は、従業員と同じように考えることはできません。
従業員と会社は雇用関係にありますが、取締役などの役員は会社との委任関係にあり、法律上期待されている役割も異なります。そのため、どのような法的根拠に基づいて、どのような対応を取れるのかも変わってくるのです。
役員によるセクハラが発生した場合には、従業員への懲戒処分と同じように考えるのではなく、行為者の立場や会社との法律関係を踏まえて対応を検討してください。
セクハラ対策は「起きてから」では遅い
以上のとおり、セクハラは、問題が発生してから処分を考えればよいものではありません。
職場に性的な言動を持ち込まないことを前提とし、経営者が日頃から「セクハラを許さない」という姿勢を社員に示しておく必要があります。
また、実際にセクハラが発生した場合には、行為者が従業員なのか役員なのかによって、会社が取るべき対応も変わります。
被害申告がなかったことを理由に問題を軽視せず、予防と発生後の対応の両方を会社として準備しておくことが、セクハラ対策につながります。