カスハラ対策で会社は何をする?経営者が知っておきたい対応と事前準備

セミナーレポート本文

第3回
  • #ハラスメント問題

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、従業員個人の接客スキルだけでなく、会社としてのルールや体制整備が欠かせません。 

正当なクレームとの線引きを行い、会社として対応方針や相談体制を整え、必要に応じて契約書にも対応方法を定めておく必要があります。

今回は、カスハラと正当なクレームの違いや、会社として整えておきたい対策、契約書による備えについて、地方維新塾第3回セミナーで解説した内容をもとに、地方維新塾の主宰弁護士・西村幸太郎が整理してお伝えします。

どこからがカスハラ?正当なクレームとの違い

お客様からの厳しい意見には、正当なクレームとして会社が受け止めるべきものもあります。 

事実、商品やサービスに問題があれば、会社として受け止め、改善に活かすことで、今後の成長に繋がることでしょう。

一方で、要求の内容や伝え方が社会通念上の範囲を超えていれば、従業員を守るための対応が必要になります。

「正当なクレーム」とカスハラの違い

正当なクレームとカスハラの違いは、次のように整理できます。

正当なクレームカスハラ
要求の内容商品・サービスの改善や問題解決を求める不当・過剰な要求を行う
要求の方法社会通念上、許容される範囲で伝える暴言や威圧など、やりすぎた方法で要求する
会社の対応意見として受け止め、必要に応じて改善する従業員を守るため、会社として対応する

正当なクレームの中には、会社にとって耳の痛い内容もあるでしょう。しかし、厳しい意見であっても、商品やサービスの改善につながるものであれば、企業として活かしていくべきです。

判断のポイントは、「厳しいことを言われたか」ではなく、正当なクレームなのか、社会通念上許容される範囲を超えた言動なのかという点です。

そのため、会社側で一定の判断基準を設け、現場が迷わず対応できる状態にしておくことが重要です。 何をカスハラと判断するのか、会社側で一定の基準を設けておく必要があります。

カスハラの代表的な8つのパターン

では、具体的にどのような行為がカスハラにあたるのでしょうか。

カスハラには、代表的なものとして次の8つのパターンがあり、紹介させていただきました。また、以下のような整理もできるかと思います。

  • 暴言・侮辱:「馬鹿」「低能」など、人格を否定するような発言をする
  • 脅迫:「殺すぞ」「潰してやる」「ネットにさらす」などと脅す
  • 土下座強要:謝罪の手段として土下座を強要する
  • 長時間拘束:数時間にわたって電話や対面で従業員を拘束する
  • SNS投稿:従業員の写真や名前を無断で投稿し、誹謗中傷する
  • 不当な要求:商品交換や過度な金銭要求、特別対応などを求める
  • 暴力行為:物を投げつける、唾を吐くなどの行為に及ぶ
  • セクハラ型:性的な言動やまとわりつきなどを行う

こうした類型を知っておくことで、現場でも「これは通常のクレーム対応の範囲なのか、それとも会社として対応すべきカスハラなのか」を判断しやすくなります。

ただし、実際の判断を現場任せにしないようにしましょう。

厚労省が指し示すカスハラ対策の「4つの柱」

厚生労働省が示している指針案では、事業主が講ずべき措置として、大きく4つの柱が示されています。

カスハラ対策では、問題発生時の対応方法に加え、会社の方針や相談体制まで一連の仕組みとして整えることが重要です。 

会社としての方針を示し、相談できる体制を作り、発生後の対応まで一連の仕組みとして整えておくという考え方が基本になります。

①:会社としての方針を明確にする

まずは、会社としてカスハラにどのような方針で対応するのかを明確にします。

何がカスハラにあたるのか、カスハラが発生した場合に会社としてどのような姿勢で対応するのかを決め、従業員にも周知しておきます。

前述したように、正当なクレームとカスハラの判断を個々の従業員に委ねるのは難しいものです。会社側が判断基準を示しておくことで、現場の従業員も会社の方針に沿って対応できるようになります。

②:相談に対応できる体制を整える

次に、カスハラを受けた従業員が「誰に相談すればよいのか」を明確にしておきます。

相談先が決まっていなければ、従業員が一人で対応を抱え込むことになりかねません。相談窓口や担当者を定め、カスハラが疑われる場面で会社に相談できる体制を整えておきましょう。

会社がルールを作るだけではなく、実際に相談できる状態まで用意しておくことが求められます。

③:カスハラ発生後に迅速かつ適切に対応する

実際にカスハラが発生した場合に備えて、どのような手順で対応するのかもあらかじめ決めておきます。

カスハラにあたるかどうかを確認し、その結果に応じてどのように対応するのか。こうした一連の流れをマニュアルなどに落とし込み、現場で使える状態にしておきます。 

問題が起きるたびに対応方法を考えるのではなく、会社として対応手順を決めておけば、従業員も迷わず会社へ対応を引き継ぎやすくなるでしょう。

④:プライバシー保護や不利益取扱いの禁止にも対応する

カスハラ対策では、相談を受けて対応するだけでなく、「相談者のプライバシーを保護すること」「相談したことを理由とした不利益な取扱いを防ぐこと」も考えておかなければなりません。

2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメント防止のために必要な措置を講じることが義務付けられます。厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針では、会社として整えるべき対応が示されています。 

会社としてカスハラ対策を整えるのであれば、方針や対応マニュアルだけで終わらせず、相談した従業員を守るところまで含めて仕組みを作る必要があります。

契約書を「カスハラから会社を守る防衛ライン」にする

カスハラ対策では、社内の相談体制や対応マニュアルの整備に加え、契約書を取り交わす取引では、契約段階からカスハラへの対応を定めておくということも有効です。

カスハラが発生してから「この顧客との契約を終了できるのか」「どこまで責任を追及できるのか」を考えるのではなく、あらかじめ契約書にルールを盛り込んでおけば、カスハラ発生時の契約終了や責任追及について、対応の根拠を明確にできます。そもそも、契約する際に、このような条項があることをアナウンスし、カスハラに毅然とした対応で臨むという姿勢を示すことで、違法不当なクレーム(カスハラ)を抑制する効果も望めます。

契約書を整備する際には、次のような項目を確認してください。

  • 迷惑行為の禁止事項:暴言や威嚇、長時間の拘束など、禁止する行為を具体的に定める
  • 契約解除に関する条項:カスハラが発生した場合に、契約を解除できる旨を定める
  • 関係者による行為への対応:契約者本人だけでなく、家族などによる行為も対象とする
  • 損害賠償・違約金:カスハラによって会社に損害が生じた場合の責任について定める
  • 録音・録画への同意:トラブル発生時の事実確認に備え、必要に応じて録音・録画について定める

契約書をすでに作成している会社でも、カスハラへの対応を想定した内容になっているとは限りません。

既存の契約書を確認し、必要であれば条項を見直しておきましょう。

なお、契約書にこうした内容を盛り込むことには、実際に問題が起きた際の対応根拠を用意するだけでなく、「当社はカスハラを許さない」という会社の姿勢を相手に示す意味もあります。

業種別の契約書の整備ポイント

カスハラへの備え方は、業種や取引形態によって異なります。

すべての会社が同じ契約書を用意するのではなく、顧客との間で普段使用している契約書や利用規約などに、カスハラへの対応を組み込むと考えてください。

小売業・飲食業の場合

小売業や飲食業では、商品を販売したり料理を提供したりするたびに、一人ひとりのお客様と契約書を交わすのは現実的ではありません。

そのため、利用規約や「ご利用上の注意」などに、迷惑行為の禁止や、カスハラがあった場合には利用を断ることがある旨を明記する方法が考えられます。

契約書を作成しにくい業種であっても、「何がカスハラなのか」「発生した場合にどう対応するのか」を会社側で決め、少なくとも現場で使えるマニュアルは整備しておきましょう。

サービス業の場合

サービス業では、サービス利用約款などにカスハラへの対応を盛り込むことが考えられます。

利用者による迷惑行為を禁止するとともに、カスハラに該当する行為があった場合には、サービスの提供を停止したり、契約を解除したりできるようにしておくという考え方です。

サービスの提供が継続するビジネスだからこそ、問題が起きてから対応を考えるのではなく、あらかじめ利用条件としてルールを示しておくことが対策になります。

BtoB取引の場合

企業間取引では、取引基本契約書にハラスメントの禁止や契約解除に関する条項を盛り込むのも有効です。

カスハラは取引先との関係でも発生する可能性があります。 

取引先との関係でも発生する可能性があるため、取引を始める段階から「どのような行為を認めないのか」「問題が発生した場合にどうするのか」を明確にしておきます。

継続的な取引だからといって現場の担当者に我慢させるのではなく、契約によって会社として対応できる状態を作っておくという発想です。

介護・福祉の場合

介護・福祉では、利用契約書にカスハラへの対応を盛り込む必要があります。

この領域では、サービスを利用する本人だけでなく、家族などの関係者とのやり取りも発生します。そのため、本人による行為だけを想定するのではなく、家族などによる迷惑行為についても対象として定めておくことを検討しましょう。

利用者へのサービスを適切に継続しながら、現場で働く職員も守らなければなりません。どのような行為を禁止し、問題が起きた場合にどのように対応するのかを、利用契約書の段階から明確にしておきましょう。

カスハラ対策は現場任せにせず会社の仕組みにする

カスハラ対策で避けたいのは、顧客から厳しい要求を受けた従業員に、その場で「カスハラかどうか」を判断させ、対応まで任せてしまうことです。

正当なクレームは会社の改善につながる一方、不当で行き過ぎた要求には、従業員を守るための対応が必要です。

その線引きを現場だけに委ねるのではなく、何をカスハラと判断するのかを会社側で言語化し、実際に使えるルールやマニュアルに落とし込んでおきましょう。

また、会社としての方針や相談体制、発生後の対応手順を整えることに加え、契約書がある業種では、カスハラが起きた場合の対応を契約段階から明確にしておくこともできます。

カスハラを「接客した従業員個人の問題」と捉えるのではなく、会社が従業員を守るための仕組みとして対策する。まずは自社のルールやマニュアル、契約書がカスハラに対応できる内容になっているか、確認するところから始めてみてください。

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