労基署・労働組合が突然来たらどう対応する?経営者が知っておきたい心得

セミナーレポート本文

第5回

「労働基準監督署の職員が会社を訪れ、調査への協力を求められた」
「労働組合から団体交渉の申入れが届いた」

こうした場面では、経営者が慌てて対応したり、相手の要求を十分に確認せず受け入れたりすることで、問題が大きくなる可能性があります。

一方で、労基署の調査や労働組合からの申入れがあったからといって、直ちに会社側に問題があると決まったわけではありません。まずは状況を確認し、適切な手順で対応することが大切です。

今回は、労働基準監督署の調査や労働組合からの団体交渉への初動対応について、地方維新塾第5回セミナーで解説した内容をもとに、地方維新塾の主宰弁護士・西村幸太郎が整理してお伝えします。

労働基準監督署が突然来たら、まず何をすべき?

労働基準監督署(労基署)の職員が突然会社を訪れた場合、まずは慌てずに調査の目的を確認しましょう。

労基署の調査は、必ずしも会社に法令違反の疑いがある場合だけに行われるものではありません。定期的な調査もあれば、労働者からの申告をきっかけとする調査もあります。

労基署の調査には4つの種類がある

労基署が行う監督には、大きく分けて次の4つがあります。

監督の種類内容
定期監督労働基準法などの遵守状況を確認するため、定期的に実施される調査。全国安全週間や最低賃金改定などイベントの時期に強化される傾向にある。
申告監督労働者からの申告をきっかけに実施される調査。退職や異動、賞与の支給時期など、労働者の不満が表面化しやすい時期は注意が必要である。
災害時監督業務中の事故など、労働災害が発生した際に実施される調査。事故の発生状況や安全管理体制などが確認される。
再監督過去に調査を受けた事業場に対し、指摘事項が改善されているかなどを確認するために行われる調査。

このうち、経営者が特に警戒しやすいのは、労働者からの申告をきっかけとする「申告監督」でしょう。

ただし、労基署の調査が入ったという事実だけで、会社に法令違反があると決まるわけでもありませんので、調査の種類や目的を確認したうえで、落ち着いて対応することが大切です。

労基署が調査する内容・しない内容

労基署は、労働に関するあらゆるトラブルを判断するのではなく、主に労働基準法などの法令に基づき、企業の労働条件や安全衛生管理を監督しています。

たとえば、未払い残業代や解雇予告手当の問題は労基署の監督対象になりますが、解雇そのものが有効か無効かといった民事上の争いは、原則として労基署が判断するものではありません。

問題の内容労基署の対応
未払い残業代労働基準法に関わるため監督対象となる
解雇予告手当の未払い労働基準法に関わるため監督対象となる
解雇の有効・無効原則として労基署が判断するものではない
パワハラに関する損害賠償民事上の責任については労基署が判断するものではない

こうした違いを知っておけば、従業員から「労基署に相談する」と言われた場合にも、何が問題となっているのかを冷静に整理できます。

また、実際に労基署の職員が訪れた際は、まず次の3点を確認しましょう。

  • 調査の目的は何か
  • どのような書類が必要なのか
  • いつ調査を実施するのか

調査への協力姿勢を示したうえで、必要に応じて日程を調整することも考えられます。ただし、立入調査には法令上の権限があるため、必ず延期できるわけではありません。

避けたいのは、感情的に職員を追い返したり、都合の悪い資料を隠したりすることです。

その場で判断できないことがあれば、弁護士や社会保険労務士に相談し、確認してから回答すればよいでしょう。

労災発生時に押さえておきたい4つのポイント

労働災害(労災)が発生した場合、会社側の初動対応によって、その後のトラブルの大きさが変わることがあります。

労災が発生した際には、次の4つのポイントを押さえることが大切です。

  •  労災隠しは絶対にしない
  •  事故現場の状況や証拠を保全する
  •  事業主証明は安易に提出しない
  •  労災認定後の損害賠償請求にも備える

それぞれ、個別に見ていきましょう。

①:労災隠しは絶対にしない

万が一、労災が発生した際、会社の評判や取引への影響を恐れて、事故を隠そうとしてはいけません。

しかし、法令上必要な労働者死傷病報告を提出しない、あるいは虚偽の報告をする「労災隠し」は犯罪となり得ます。 違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

また、外国人労働者を受け入れている企業では、今後の外国人材の受入れに影響する場合もあるため、適切な報告・手続きが必要です。

②:事故現場の状況や証拠を保全する

労災が発生した場合、事故現場の状況をできる限り早く記録しておきましょう。

交通事故とは異なり、労災では事故直後に第三者が現場の状況を記録してくれるとは限りません。

そのため、現場の写真撮影、図面の作成、当事者や目撃者への聞き取りなどを行い、証拠を残しておく必要があります。

③:事業主証明は安易に提出しない

労災の申請では、事業主が事故の発生状況などを証明する欄が設けられています。

ただし、労働者の主張と会社側の認識が異なる場合には、事実関係を確認せずに証明しないよう注意が必要です。

セミナーでは、従業員が「違法な退職勧奨やパワハラによって精神疾患になった」と主張し、労災申請を行った事例を紹介しました。

会社側はそのような事実はなかったと認識していたため、顧問弁護士と相談のうえ、事業主証明を行わず、その理由を書面で説明しました。その後、労基署に意見書や証拠を提出した結果、労災に該当しないと判断されています。

なお、事業主証明がなくても労働者は労災申請できるため、会社側は事実関係に沿って対応しましょう。

④:労災認定後の損害賠償請求にも備える

労災が認定され、保険給付が行われても、それですべての問題が解決するとは限りません。

労災保険には慰謝料の給付がなく、休業(補償)等給付も原則として給付基礎日額の60%です。

そのため、会社側に安全配慮義務違反などが認められる場合、従業員から別途損害賠償を請求される可能性があります。

労災発生時は、保険の手続きだけでなく、その後の損害賠償請求も見据えて対応しましょう。

労働組合から団体交渉を申し入れられたら?

では、労働組合から団体交渉の申入れが届いた場合、会社としてどのように対応すればよいのでしょうか。

中小企業では、社内に労働組合がないことも珍しくありません。しかし、従業員が社外の労働組合(ユニオン)に加入し、そこから団体交渉を申し入れられることがあります。

前提として団体交渉そのものは拒否できない

労働組合から正当な団体交渉を申し入れられた場合、会社側は原則としてこれを拒否できません。

正当な理由なく拒否すると、労働組合法上の「不当労働行為」に該当する可能性があります。

ただし、団体交渉に応じることと、労働組合の要求をすべて受け入れることは異なります。 誠実に交渉し、会社側の事情や考えを説明したうえで、要求に応じないという判断をすることは可能です。

交渉を進める際には、次のような点を押さえておきましょう。

  • 冷静に対応する:相手の発言に感情的に反応せず、落ち着いて交渉を進める。
  • 交渉場所を選ぶ:社内での開催にこだわらず、外部の会議室などを利用する。時間を区切りやすく、落ち着いた環境で交渉できる。
  • 場所・時間を事前に決める:交渉が長時間に及ばないよう、あらかじめ時間や会場を調整する。
  • 書面で記録を残す:会社側の説明や回答を記録し、誠実に交渉した経緯を残しておく。

ぐに判断できない事項については、持ち帰って検討することも可能です。早く終わらせることを優先せず、会社として説明できる内容を整理しながら交渉を進めましょう。

労働組合の要求をどう受け止め、交渉を進めるべきか

団体交渉では、労働組合側から強い言葉で要求を突きつけられることがあります。ただし、その発言を文字どおりに受け止め、すぐに応じる必要があるとも限りません。

そのため、講労働組合側の発言について、交渉の実務経験から考えられる意図を推察する意識を持ちましょう。

労働組合側の発言考えられる意図
「訴えるぞ」「監督署に行くぞ」裁判などに進む前に、交渉で早期解決したい
「書面ではなく口頭で回答しろ」書面による回答や交渉記録を残したくない
「社員への書面での注意はやめろ」後の紛争で会社側の証拠となる記録を増やしたくない
「社長が今すぐ決めろ」会社側に持ち帰って検討する時間を与えず、その場で結論を出させたい
「弁護士や社労士を入れるな」専門家を介さず、会社側と直接交渉したい

もちろん、すべての労働組合がこうした意図で発言しているとは限りません。大切なのは、相手の発言に反射的に応じるのではなく、その要求の内容や背景を冷静に見極めることです。

また、会社側が交渉に誠実に対応していることを示すためにも、回答を書面に残すことは有効です。

必要な説明や資料の提示を行い、そのうえで応じられない要求については理由を伝えましょう。

これからは「心の経営」が求められる時代

労働基準監督署の調査や労働組合からの団体交渉は、経営者にとって大きな不安につながるものです。

しかし、こうした問題に直面した際、必要以上に恐れたり、相手の勢いに押されて判断したりする必要はありません。

労基署の調査では事実関係を整理し、団体交渉では相手の要求を冷静に受け止める。そのうえで、会社として適切な対応を考えることが大切です。

また、経営者が一人で抱え込まず、必要に応じて弁護士などの専門家を頼ることも、一つの方法です。

問題が起きたときに慌てず、冷静に判断できる状態をつくっておくことが、経営者自身の心の余裕にもつながるのではないでしょうか。

最後の締めくくりとして、「適切な労働組合対応とは?」を考えさせる事例をご紹介。稲盛和夫さんの、JAL再建劇を取り上げ、メッセージしました。

同じ方向を向いて、心をあわせて、一致団結して、会社が1つの目的に進んでいく。

小手先のテクニックよりも、心を磨いて高めることがとても大切なんだなぁ、ということを学びました。組合対応の神髄、本当に重要なことを見た気がします。

ぜひみなさんも、今一度、稲盛和夫さんの事例を参考にして、組合対応について、考えてみて下さい。

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