問題社員への対応では、「解雇したい」と考える前に、まず会社としてどのような順番で対応すべきかを整理しておく必要があります。
対応を誤ると、問題は本人だけにとどまりません。上司が「パワハラと言われるのではないか」と萎縮し、現場で注意や指導ができなくなる。
その結果、職場の雰囲気が悪化し、周囲の従業員にしわ寄せがいく。さらに、優秀な人材が離職し、人手不足が進み、会社が追い込まれてから解雇を決断する。こうした悪循環に陥ることがあります。
今回は、そんな問題社員への適切な対応手順について、第2回地方維新塾で解説した内容をもとに、地方維新塾の主宰弁護士・西村幸太郎がお伝えします。
問題社員を放置するとどうなる?
問題社員への対応を先送りにすると、問題は知らぬ間に悪化していきます。
最初は一人の勤務態度や言動の問題だったものが、上司の思考停止、職場環境の悪化、周囲の離職、人手不足、解雇判断、紛争へとつながることがあるのです。
「最悪のシナリオ」を避ける上でも、問題社員対応で避けるべきなのは、何もしないことと、いきなり解雇に進むことの両方です。まずは、放置した場合にどのような事態が起こり得るのかを確認していきます。

問題社員を放置すると、現場の上司が対応をためらい、周囲の従業員に負担が偏っていきます。その結果、職場環境の悪化や優秀な人材の離職につながることがあります。
さらに、追い込まれてから解雇を選択すると、「労働組合との団体交渉」「訴訟」に発展しかねず、解雇が無効と判断されれば「バックペイの支払い」「復職対応」も発生します。
問題社員対応は、まず雇用維持の努力から始まる

以上のようなリスクがあるため、問題社員への対応というと、すぐに解雇を考えてしまう経営者も多くいらっしゃいます。しかし、会社にはまず雇用維持に向けた努力が求められます。
社員が抱える問題の内容を見極め、改善の機会を与え、それでも改善が見込めない場合に初めて次の段階へ進むという考え方です。
「仕事ができない」場合の対応方法
仕事ができない社員への対応では、「能力不足」という評価だけで判断してはいけません。
まずは、営業目標や業績などの客観的なデータをもとに現状を把握し、どのような指導を行ったのかを記録として残していくことが大切です。
口頭で終わらせるのではなく、書面による注意指導や面談記録、業務日誌などを活用し、改善に向けた取り組みを積み重ねることが会社を守る証拠になります。
「仕事ができない」という理由だけで解雇を検討するのではなく、会社として教育や改善の機会を十分に与えたことを示せる状態を作っていきましょう。
「遅刻・欠席など、態度に問題がある」場合の対応方法
遅刻や欠勤、勤務態度の悪さ、協調性の欠如といった問題は、仕事の能力とは性質が異なります。
こうした問題は比較的客観的に把握しやすいため、「いつ、どのような問題行動があったのか」「どのような注意や指導を行ったのか」を継続的に記録しておくことです。
また、注意をしただけで終わらせるのではなく、改善目標や改善スケジュールを本人と共有し、改善の機会を与えることも求められます。
対応方法は雇用維持か解消かで異なる

ここまで見てきたように、「仕事ができない場合」と「遅刻や欠勤など勤務態度に問題がある場合」では、会社が取るべき対応は同じではありません。
能力不足であれば、教育や指導を通じて改善を目指すことが基本となります。
一方、就業規則違反や業務命令違反など、勤務態度に問題がある場合は、注意指導だけでなく、懲戒処分などを含めた対応を検討することもあります。
つまり、問題社員への対応は一律ではなく、問題の内容に応じて雇用維持を目指すのか、それとも雇用解消に向けた対応へ進むのかを判断する必要があります。
問題社員に対して会社が取るべき7つのステップ
問題社員への対応では、一足飛びに解雇を目指すのではなく、段階的に対応を積み重ねていくことが大切です。具体的には、以下の7ステップを踏むことになります。

- STEP①:事実関係の把握
- STEP②:指導・注意・教育
- STEP③:厳重注意
- STEP④:懲戒処分
- STEP⑤:人事権による降格・配転等
- STEP⑥:退職勧奨
- STEP⑦:解雇
それぞれ順番に解説します。
STEP①:事実関係の把握
問題社員への対応は、まず事実関係を把握することが必要です。
感覚や印象だけで判断してしまうと、後になって「そのような事実はなかった」と争われる可能性があります。そのため、何が起きたのかを客観的に確認し、必要な証拠を集めることが求められます。
場合によっては探偵や弁護士など、外部の専門家の力を借りながら事実関係を整理しましょう。
STEP②:指導・注意・教育
事実関係を確認した後は、本人に対する指導・注意・教育を行います。
日本の労働法では、「仕事ができないからすぐに解雇する」という考え方は認められません。会社は、社員へ役割を与え、教育し、教育を尽くしたかどうか、という視点で見られます。
そのため、問題点を伝えて終わりではなく、どのような指導を行い、改善を促したのかという経過を積み重ねていくことが必要なのです。
STEP③:厳重注意
指導や教育を行っても改善が見られない場合は、厳重注意へ進みます。
厳重注意では、会社として問題を重大に受け止めていることを正式に伝えます。後になって「会社は何も指導していない」と言われないためにも、ここでも対応の履歴を残していくことが、会社を守ることにつながります。
STEP④:懲戒処分
厳重注意を行っても改善が見られない場合は、懲戒処分を検討します。
懲戒処分には、戒告・けん責・減給・出勤停止など、さまざまな種類があります。ただし、どのような処分でも自由に行えるわけではありません。
「就業規則に根拠となる規定がある」「問題行為の内容に対して処分が重すぎない」など、法律上の要件を満たす必要があります。
STEP⑤:人事権による降格等
懲戒処分とは別に、会社には人事権に基づく対応もあります。
例えば、管理職としての適性を欠く場合には降格を行ったり、現在の業務が適さない場合には配置転換を行ったりすることが考えられます。
こうした人事上の措置によって改善が図れるのであれば、直ちに雇用契約を終了させる必要はありません。
STEP⑥:退職勧奨
段階的な対応を重ねても改善が見られない場合は、退職勧奨という選択肢があります。
会社には、人事権に基づき降格や配置転換などを行う選択肢もあります。退職勧奨は、会社が退職を勧めるものであり、従業員との合意によって退職してもらう方法です。
一方的に退職を強制することはできませんが、合意によって退職に至れば、解雇をめぐる紛争を避けられる可能性があります。
STEP⑦:解雇
解雇は、これまでの対応を尽くしたうえで、それでも雇用維持が難しい場合に検討する最後の手段です。
解雇では、会社としてどのような指導を行い、どのような改善の機会を与え、どのような対応を積み重ねてきたのかが問われます。
だからこそ、問題社員への対応では、最初から解雇を目指すのではなく、ここまでの一つひとつの手順を踏みながら進めていくことが必要不可欠なのです。
解雇は高度な経営判断である
問題社員への対応では、「問題がある社員だから解雇する」という発想ではなく、「解雇が法的に認められる状況なのか」を慎重に判断する必要があります。
解雇は会社が自由に選択できる手段ではありません。
これまでどのような指導や教育を行い、どのような改善の機会を与え、それでも雇用維持が難しい状況だったのかという経過まで含めて判断されます。
解雇は人事上の判断であると同時に、法的な判断でもあります。対応の順序を誤れば、解雇が無効となり、会社が大きな負担を負う可能性もあるため、慎重に行っていきましょう。