問題社員への対応というと、解雇や懲戒処分など、問題が発生した後の対応に目が向きがちです。
しかし、労務トラブルを防ぐためには、採用の段階から「問題社員を採用しない仕組み」を作ることも大切です。
採用時の見極め方や面接で陥りやすい心理的な落とし穴、試用期間の正しい考え方を理解しておくことで、採用後のミスマッチや労務リスクを減らすことにつながります。
今回は、問題社員を採用しないための採用の考え方について、地方維新塾第2回セミナーで解説した内容をもとに、地方維新塾の主宰弁護士・西村幸太郎が解説していきます。
最大の問題社員対策は「採用」にある
結論をいえば、最大の問題社員対策は、問題社員を採用しないことです。
問題社員への対応には、指導や懲戒処分、退職勧奨など多くの時間と労力がかかります。だからこそ、問題が起きてから対処するだけでなく、採用段階でミスマッチを減らす視点が必要です。
そのためには、採用を急がず、複数の情報をもとに応募者を見極める仕組みを整えておかなければなりません。
問題社員を採用しないための対策一覧
とはいえ、短時間の面接だけで、その人の能力や人柄、入社後の行動まで正確に判断するのは難しいものです。
だからこそ、「面接で何となく印象が良かったから採用する」という進め方ではなく、複数の情報を重ねながら判断する必要があります。
問題社員を採用しないための打ち手は、以下の通りです。

- 採用を急がずに済むよう、人員に余裕を持たせる
- 採用に必要な時間と費用をかける
- 履歴書から転職回数を確認し、新卒者の場合はアルバイト歴も見る
- 面接で以前の職場を退職した理由を確認する
- 過去の勤務先で労働紛争がなかったかを確認する
- 性格診断テストや能力診断テストを活用する
- 面接を2回以上実施し、複数の視点から判断する
人手不足だからといって採用を急ぐと、「とにかく入社してもらうこと」が目的になり、本来確認すべき点を見落としやすくなります。
採用に時間と費用をかけることは、一見すると負担に見えるかもしれません。
しかし、採用後に問題が起き、指導や懲戒処分、退職勧奨、解雇まで進む負担と比べれば、採用段階で慎重に見極める方が会社にとってはるかに合理的です。
採用時に注意したいダークトライアドとは

採用面接では、短時間のやり取りだけで応募者の本質を見抜けるとは限りません。特に注意したいのが、「ダークトライアド」と呼ばれる次の3つの特性です。
- 自己愛が強すぎる
- 話術に長け、他人を操作しようとする
- 他者への共感性が欠けている
こうした特性を持つ人は、短時間の面接では自信があり、話がうまく、有能で魅力的な人物に見えることがあります。
面接時の印象だけで採否を決めず、複数回の面接や適性検査、過去の経歴などを組み合わせて確認することが、採用後のミスマッチを防ぐことにつながります。
中小零細企業は「理念共感型採用」が武器となる
中小零細企業にとって、最大の強みは給与や知名度ではありません。会社の理念や価値観に共感する人材を採用し、組織全体で同じ方向を向くことです。
経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏は、次のような言葉を残しています。

“会社経営の成否の50%は経営理念の浸透度で決まり、30%は人財のやる気を引き出す仕組みづくりで決まり、残り20%が戦術である”
この言葉が示すように、経営の土台となるのは、経営理念を組織へ浸透させることです。
理念に共感して入社した社員は、会社が目指す方向を理解しやすく、仕事に対する判断や行動にも一貫性が生まれます。一方で、条件だけを重視して採用すると、入社後に価値観のズレが表面化し、組織とのミスマッチにつながることもあります。
中小零細企業だからこそ、待遇だけで勝負するのではなく、自社の理念に共感する人材を採用する「理念共感型採用」が、大きな武器になるのです。
採用面接時に理解しておきたい心のクセとは

採用では、応募者を見極めることばかりに意識が向きがちです。しかし、見落とされやすいのが、面接官自身にも判断を誤らせる「心のクセ」があることです。
第一印象や先入観に左右されると、本来見るべき能力や人物像を正しく評価できなくなる可能性があります。
ここからは、採用面接で特に注意したい3つの心理効果を紹介します。
ハロー効果
ハロー効果とは、一つの目立った特徴によって、その人全体の評価が左右されてしまう心理現象です。
例えば「有名大学を卒業している」「受け答えが上手い」「第一印象が良い」といった一つの長所だけで、「仕事もできる人だろう」と判断してしまうケースが挙げられます。
採用では、一つの特徴だけで評価を決めるのではなく、経験や能力、価値観などを総合的に確認することが大切です。
確証バイアス
確証バイアスは、一度抱いた印象を裏付ける情報ばかり集めてしまう心理傾向です。
「この人は優秀そうだ」と感じると、その印象に合う情報ばかりを質問し、反対の情報を見落としてしまうことがあります。
面接では、良い点だけでなく懸念点についても確認し、仮説を検証する姿勢を持つことが重要です。
ピグマリオン効果
最後のピグマリオン効果とは、相手に対する期待が、その人の行動や成果へ影響を与える心理効果です。
面接官が「この人は優秀だ」と期待すると、その期待に沿う受け答えを引き出しやすくなり、結果として実際以上に高く評価してしまうことがあります。
採用面接では、第一印象や期待だけに左右されず、客観的な評価基準に沿って判断することが、採用ミスを防ぐポイントになります。
試用期間に関するよくある誤解と実施する意義
短時間の面接だけで応募者の適性を完全に判断できないことから、多くの企業では試用期間を設けています。
しかし、試用期間の意味を誤解したまま運用してしまうと、かえって労務トラブルにつながるおそれがあります。
「試用期間であればクビにできる」は大きな間違い
よくある誤解なのですが、「試用期間中だから自由に解雇できる」という考え方は誤りです。
試用期間中であっても、労働契約はすでに成立しています。そのため、本採用を見送る場合でも、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。
試用期間は「簡単に解雇できる期間」ではなく、社員としての適性を見極めるための期間と考える必要があります。
試用期間で定義すべき事柄
試用期間を設けるのであれば、「何を試用するのか」をあらかじめ明確にしておくことが重要です。
たとえば、業務遂行能力や勤務態度、協調性、会社の理念への理解など、評価項目を事前に定めておけば、採用後も客観的な基準に基づいて判断しやすくなります。
また、試用期間中は評価だけで終わらせるのではなく、必要な指導や教育を行い、その内容も記録として残しておくことが大切です。
試用期間は、本採用の可否を判断するためだけの期間ではありません。会社と社員がお互いに適性を確認し、長く活躍できる関係を築くための期間として活用することが求められます。
仕組みから問題社員対策が「そもそも発生しない」体制を作りあげよう
問題社員への対応というと、解雇や懲戒処分など、問題が発生した後の対応に意識が向きがちです。
しかし、本当に目指すべきなのは、問題社員への対処が必要にならない組織を作ることです。
そのためには、採用段階で自社に合う人材を見極め、試用期間で適性を確認し、理念や価値観を共有しながら組織へ迎え入れる仕組みを整えることが重要になります。
問題社員対策は、人事担当者だけの仕事ではありません。採用基準や面接方法、試用期間の運用などを含めた経営の仕組みそのものを見直すことで、将来の労務トラブルを大きく減らすことができます。
問題が起きてから対応するのではなく、「そもそも発生しない仕組み」を作ることこそが、会社と社員の双方にとって最も望ましい問題社員対策といえるでしょう。